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福岡高等裁判所 昭和46年(ネ)281号 判決

控訴人

有限会社九州木工

右代表者

川崎武一

右訴訟代理人

榎本勲

被控訴人

岸本木材合資会社

右代表者

岸本慶一

右訴訟代理人

村田喜一

主文

原判決を次のとおり変更する。

控訴人は被控訴人に対し金一六三万九、五〇〇円および内金七〇万円に対する昭和四二年一二月一九日から内金九三万九、五〇〇円に対する昭和四三年一月一九日からそれぞれ支払ずみに至るまで年三割の割合による金員を支払え。

被控訴人のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。

この判決は被控訴人において金五〇万円の担保を供するときは主文第二項に限り仮に執行することができる。

事実

控訴代理人は「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

〈証拠略〉

理由

〈証拠〉を総合すれば、控訴会社、被控訴会社はいずれも家具等の製造販売を目的とする会社であるが、被控訴会社の代表者岸本慶一は昭和四二年九月二一日、友人の控訴会社代表取締役村田義夫から控訴会社の運転資金借入れの申込みを受けたので、被控訴会社より控訴会社に対し(一)金七〇万円を利息年一割五分、遅延損害金年三割、弁済期日同年一二月一八日、(二)金九三万九、五〇〇円を利息、遅延損害金(一)と同じ、弁済期日昭和四三年一月一八日の約束で貸付けることとし、右村田よりその旨の借用証書二通(甲第一、二号証)を差し入れさせたうえ、現金の交付に代えて被控訴会社振出の(一)額面金七〇万円、支払期日昭和四二年一二月一八日、振出地支払地とも北九州市門司区、支払場所株式会社山口銀行門司支店、受取人白地、振出日同年九月二一日、(二)額面金九三万九、五〇〇円、支払期日昭和四三年一月一八日、支払場所株式会社福岡相互銀行門司支店、その他の記載(一)と同じ約束手形二通を右村田に交付したこと、そこで右村田は右各手形を他で割り引いてこれを控訴会社の運転資金に充てたこと、被控訴会社は右各手形の満期に右各手形の所持人に右各手形金を支払つたことが認められ、右認定に反する当審証人竹本龍夫の証言、原審における控訴会社代表者本人尋問の結果は前記証拠に照らし措信できない。

もつとも、当審証人竹本龍夫の証言により控訴会社の帳簿であることが認められる乙第一号証の一ないし一七には被控訴会社からの本件借入金の記入がされていないが、〈証拠〉によれば、控訴会社の代表取締役は村田義夫、岸本慶一から川崎武一へと交替したが、岸本慶一から川崎武一へ交替する際、従来岸本個人と被控訴会社が控訴会社に貸付けていた債権を明らかにするため、本件貸金を含めた岸本勘定明細表(甲第九号証)を作成して川崎武一の承認を得たことが認められるので、前記乙第一号証の一ないし一七に本件借入金の記載のない事実はなんら前記認定の妨げとはならない。

ところで、金銭の消費貸借にあたり、貸主が借主に対し現金の交付に代えて約束手形を振り出した場合においては、特段の約定のない限り、貸主である振出人が満期に手形所持人に対して手形金の支払をした時に、手形金額相当額について消費貸借が成立すると解するのが相当であつて、このことは、たとえ約束手形の受取人である借主がこれを他で割り引き、手形金額にみたない現金を入手した場合であつても同様であると解する。けだし、約束手形は振出人が受取人またはその指図人に満期において額面金額の現金の交付を約した書面にすぎず、振出人としては満期に手形所持人に対して額面金額相当の現金を支払つたときにはじめて借主に現金を交付したと考えるのが通常であり、これに反して、借主に手形を交付したときに消費貸借が成立するとすれば、振出人である貸主は、現金の支出なくして振出日より満期日までの間、消費貸借契約において定められた利息を丸々利得するという不当な結果を生ずることとなるからである。

そうすると、本件においては、前記(一)の額面金七〇万円の約束手形の満期日である昭和四二年一二月一八日に金七〇万円について、前記(二)の額面金九三万九、五〇〇円の約束手形の満期日である昭和四三年一月一八日金九三万九、五〇〇円について被控訴会社、控訴会社間にそれぞれ消費貸借が成立したものというべきである。

よつて、被控訴会社の本訴請求は、控訴会社に対し右貸金合計金一六三万九、五〇〇円および内金七〇万円に対する弁済期日の翌日である昭和四二年一二月一九日から、内金九三万九、五〇〇円に対する弁済期日の翌日である昭和四三年一月一九日からそれぞれ支払ずみに至るまで年三割の割合による約定遅延損害金の支払を求める限度において正当としてこれを認容すべきであるが、その余は失当としてこれを棄却すべきところ、原判決中右と趣を異にする部分は失当であつて、本件控訴は一部理由があるから、原判決を主文のとおり変更することとし、訴訟費用の負担について民訴法九六条、八九条、九二条但書を、仮執行の宣言について同法一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(松村利智 塩田駿一 境野剛)

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